墨龍

お釈迦様が最勝の教えである「妙法蓮華経」をお説きになった古代インドの霊鷲山。
久遠寺を創建された日蓮大聖人は身延山に霊鷲山を感じ取られていました。
身延山久遠寺の本堂は明治8年の大火で焼失以来、長きに亘り再建が切望されてきましたが、
ついに昭和60年、間口17間半、奥行28間、総面積970坪の威容を境内に現しました。
戦後を代表する日本画家である加山又造画伯による天井画『墨龍』は、この本堂外陣に描かれています。
龍は仏法を守護し、法雨を澍いで衆生を導く善神として古来より崇められてきました。

法華経の根本道場たる身延山久遠寺を守護する『墨龍』は、
11メートル四方、23,500枚の金箔に墨で描かれており、
画伯自らの言葉にあるように、それまでに得た全ての技と、
日本画の常識を覆す手法、そして迸る情熱が注ぎ込まれています。
「八方睨み」の両眼は本堂内の全ての人を見据えており、常に法雨が澍がれていることを感じられます。
また一般的には描かれることの多い宝珠が、『墨龍』の高貴な龍の証である五本の爪には握られていません。
すなわち、誰もが仏様の心を生まれながらにして持っていることが説かれた法華経こそが宝珠であり、
霊鷲山に等しい聖地、身延山で合掌する人々の心の中には、
すでに宝珠が備わっていることを気づかせてくれているのです。


身延山92世 内野日総