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育恩の峰より
奥之院思親閣別当 佐藤 順行
お山に響けお題目(みのぶ誌2022年11月号より)

 私が七面山に奉職させて頂いていた時の事です。朝の下山中、遠くからお題目の声が聞こえてきました。耳を澄ますと、何とそのお題目は遠くに見える身延山の方角から聞こえていたのでした。その季節は身延山をご修行で団体様が歩いて登山、下山をされる時期。時計を見るとちょうどその時間に当り、納得がいきました。この時私はお祖師様の「吹く風もゆるぐ木草もこの山には妙法の五字を唱えずという事なし」のご遺文を思い出し、もしかするとお祖師様も、このように身延の山中で声なき声のお題目を感じ取られていたのかなと想いを巡らせました。
 私達も唱題行脚といって団扇太鼓に合わせお題目を唱え、お祖師様のご霊跡や全国各地を歩くご修行を行います。まだご修行を始めたばかりの頃は、なぜ家も無いような所も歩くのだろうと思いました。ですがある時、行脚修行の際に頂いた先生のお言葉にその疑問はすぐに払拭されました。先生は「私達はここに住んでいる皆さんに向かってお題目をお唱えしているだけではない。その道中には目には見えなくとも救われない霊魂がおられる。それは人だけではない。私達のお題目は動物や草木、全ての諸精霊の救いにもなる。更にはお題目のお力でその土地、ひいてはこの日本の国土を清浄にするのだ」とおっしゃられました。また私はこれまで数人の恩師、先輩から同じお言葉を頂いています。それは「身延山には生きている方だけではなく、同じように亡くなった方々の数えきれない霊魂も救いを求めに、今もお祖師様のもとを訪れている。だからその諸精霊の為にも我々が率先してお題目、お経を沢山お唱えしなければいけない。恐れ多いけれどもそうしてお祖師様のお手伝いをさせて頂くのだ」というお言葉でありました。こうしたお言葉を胸に私も少しでも多くの唱題、読経を日々、心がけています。11月は奥之院主催の身延山登詣参拝がございます。皆様と共に一遍でも多いお題目をお唱えしたいと存じます。