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七面山別当より
別当 小松 祐嗣
真心尽くせ(みのぶ誌2025年7月号より)
この原稿を執筆している5月末、七面山の朝の気温は9度と未だ一桁ではありますが、山の木々も青々と新緑が眩しく、境内には三葉ツツジがピンクと紫の中間とでもいった鮮やかな大輪の花を開き、参拝者を迎えてくれています。やっとの思いで到着された参拝者のお顔を見ていますと、額に汗を光らせ、道中の苦労を滲ませながらも、心和らぎ安堵の表情に変わる瞬間が垣間見られ、私たちもつられて笑顔になる事がございます。
七面山に色とりどりの花が咲く頃、いつも思い出す詩があります。
「あれを見よ 深山の桜 咲きにけり 真心尽くせ 人知らずとも」
これは臨済宗の僧、松原泰道師が青年時代に、この詩が彫られた句碑をたまたま見つけ、それ以後大切にされた言葉だそうです。
真摯に七面大明神様にお給仕申し上げる立場にありながらも、別当様などと声をかけられると、すぐに偉くなったような気になってしまう私であります。お勤めの際のご挨拶でも、立派に見られたいものだとか、いいお話でしたと言われたいものだとか、ついつい思ってしまうものですが、ツツジはそんな事は一切気にもしていません。誰かに感謝されたいとか、ましてや誰かの為になりたいとさえ思っていないのではないのでしょうか。七面山のツツジは私が生まれる前からそこに根付き、ただただ自分のなすべきことをなしているのです。
真心とは、嘘偽りなく真剣に尽くすことを言います。それが大切であることは誰もが知ることでありますが、そのように生きることは本当に難しいものです。忙しければ忙しいほど、苦しければ苦しいほど、ついつい自分の事だけにかまけてしまうものです。一生懸命のようにも見えますが、それでは真心を尽くすとは言えません。脇目もふらず息を切らし、ただひたすら登る道中、七面大明神様が一輪の花となって語りかけているようにも思うのです。お前は深山の花になれるかと。