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育恩の峰より
奥之院思親閣別当 佐藤 順行
桜に想う(みのぶ誌2021年5月号より)

 本年はお彼岸前に身延山内のしだれ桜が開花を始め4月初旬には葉桜になるという、かつてない慌ただしい桜のシーズンでありました。そうした中うれしい発見がありました。私事ですが11年前に思親閣に奉職していた際、自坊の裏山に紅しだれ桜の苗木を60本程植樹しました。これは全国の皆さんがご供養や願いを桜に込めてお施主様となり、奉納頂いた桜です。今年も可愛いピンクの花が咲き始めた頃、私がロープウェイで奥之院に向かっている時、車窓から又、山頂からも裏山の桜をはっきりと確認できる事に初めて気が付きました。11年間の着実な成長に、まるで我が子の様に改めて桜が愛おしく思えました。
 毎年、散りゆく桜を眺めながら、必ず思い出す有名なお言葉が二つあります。「散る桜 残る桜も散る桜」これは良寛禅師の辞世の句であります。もう一つは「人の寿命は無常なり。出づる息は入る息を待つ事なし。風の前の露、尚譬えにあらず。賢きも、はかなきも、老いたるも、若きも定め無き習いなり。されば先づ臨終の事を習ふて後に他事を習うべし」というお言葉。こちらは日蓮大聖人がご信者さんに宛てられたお手紙の一節であります。ご表現はそれぞれであられますが、限りある命のはかなさと尊さを思い返さずにはいられないお言葉ではないでしょうか。殊に大聖人の一節は、誰しもが必ず迎えるその時に備え、悔いの無いよう毎日を精一杯に過ごしなさいという励ましのお言葉でもあると自分なりに受けとめさせて頂いています。
 余り知られていませんが、奥之院の境内にも由緒ある桜がございます。万治2年(1659)8月、漢詩人としても高名であられた元政上人が年老いた母上を輿に乗せ、病身を顧みず奥之院に登詣され亡き父のご供養をされました。その後、境内にご遺骨を自身の剃り髪と共に埋葬され、塚の傍らにしるしとして桜を植えられました。現在でも元政桜と呼ばれ、毎年この時期に花を咲かせます。