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育恩の峰より
奥之院思親閣別当 望月 海俊
親思う心にまさる親心(みのぶ誌2016年6月号より)

 梅雨の時節。皆様におかれましては、体調の管理には十分ご留意頂きたく存じます。当思親閣では、いつにも倍して湿気に悩まされますが、時として、山頂からの雲海を楽しむことができます。終日その絶景が留まらないのは残念ですが、普段見る眼下の町村が消え、駿河湾まであたかも一つの海になったかと見紛うほどです。
 斯く天空の寺の様相となり、街の喧噪が厚い雲によって遮られ、深山幽谷の静謐に包み込まれての読誦唱題は、法悦もひとしおであります。
 ところで、世間ではそろそろ国政選挙の話も活発になってくる頃でしょうか。中国の前漢時代には、役人の選抜手段に「孝廉」(孝順で清廉潔白な者を推挙)があったそうですが、親を思うお寺に給仕する身にしてみますれば、このような枠が欲しくなるところです。
 さて、幕末から明治期の日本を導く人材を輩出した松下村塾。こと吉田松陰の影響は多大であるようですが、青年期に彼の諸国遊学の費用を赤貧の生活から工面したり、塾や門下生を支えたのが、母親の瀧でした。後、松陰はとらわれの身となり齢わずか30で没するのですが、瀧は湿気の多い牢獄生活の我が子を案じて、洗濯や差し入れの日々を過ごしました。
 冒頭の句、親のことを辞世として遺す程に、母の大恩を忘れなかった孝心が偲ばれます。「目を閉じてトッサに親の祈り心を察する者、これ天下一等の人材」とは徳永康起(教育者)の言葉ですが、ご登詣の皆様が、雲海に浮かぶ大聖人望郷遙拝の思親山を望み、親心に思いを巡らせて頂ければ幸いに存じます。

合掌


追記 思親閣祖師堂の正面に妙蓮尊尼七五〇遠忌の報恩回向柱が建立されました。又、現在フェイスブックにて奥之院思親閣「母への手紙」を検索すると、多くの皆様により、ご自身へのお母様への感謝をあらわす動画を見る事ができますので是非ご覧下さい。